後見という制度ってどんな制度ですか?
認知症・知的障害・精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々を保護し、支援する制度です。
一般的に後見とは、保護を要する人の後ろ盾となって補佐することをいいますが、法律上の後見は、後見人に財産管理や日常取引の代理等を行ってもらいます。
法律上の後見には、法定後見と任意後見があります。
法定後見は、裁判所の手続によって後見人が選ばれ、後見が開始する制度です。
例)
未成年者は、通常は、親権者である親が未成年者に代わって財産管理や取引を行って未成年者を保護しますが、親がいない場合には、裁判所が後見人を選任して未成年者を保護します(未成年後見)。
成人でも、精神障害等によって判断能力が不十分な人については、裁判所が後見人を選任して保護します(成年後見)。
これに対し、保護を必要とする人が、自分の意思(契約)によって後見人を選任するのが任意後見の制度です。
つまり、法定後見は、判断能力がすでに失われたかまたは不十分な状態であるため、自分で後見人等を選ぶことが困難な場合に、裁判所が後見人を選ぶ制度であるのに対し、任意後見は、まだ判断能力がある程度(後見の意味が分かる程度)ある人が、自分で後見人を選ぶ制度なのです。
任意後見制度とは、どのような制度ですか?
任意後見制度は、本人が十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成した公正証書で結んでおくというものです。そうすることで、本人の判断能力が低下した後に、任意後見人が任意後見契約で決めた事務について、家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の監督のもと本人を代理して契約などをすることによって、本人の意思にしたがった適切な保護・支援をすることが可能になります。
任意後見契約とは、委任契約の一種で、委任者(本人)が、受任者に対し、将来認知症などで自分の判断能力が低下した場合に、自分の後見人になってもらうことを委任する契約です。
「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計では、2020年の65歳以上の高齢者の認知症有病率は16.7%、約602万人となっており、6人に1人程度が認知症有病者と言えます。2025年には約700万人、65歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれています。
認知症に罹患して、自分の財産が管理できなくなり、いくらお金を持っていても、自分ではお金が使えない事態になります。また、病院などで医師の治療を受けようとしても、医師や病院と医療・入院契約を締結することができず、治療などを受けられなくなるおそれもあります。将来の老いの不安に備えて、自分が元気なうちに、自分が信頼できる人を見つけて、その人との間で、自分が老いて判断能力が衰えてきた場合などには、自分に代って、財産管理や必要な契約締結などをしてくださいとお願いしてこれを引き受けてもらう契約が、任意後見契約です。
任意後見契約は、なぜ必要になるのですか?
認知症等で判断能力が低下した場合、成年後見の制度により裁判所に後見人を選任してもらうこともできます。しかし、裁判所が後見開始の審判をするためには、一定の者(配偶者や親族等)の請求が必要です。また、法定後見では、本人は、裁判所が選任する後見人と面識がないこともありえます。
自分が信頼する人に確実に後見人になってもらうためには、任意後見契約を締結することが必要になるのです。
任意後見人の基本的な仕事の中身はなんですか?
・本人の「財産の管理」
自宅等の不動産や預貯金の管理、年金の管理、税金や公共料金の支払い等々
・「介護や生活面の手配」
要介護認定の申請等に関する諸手続、介護サービス提供機関との介護サービス提供契約の締結、介護費用の支払い、医療契約の締結、入院の手続、入院費用の支払い、生活費を届けたり送金したりする行為、露老人ホームへ入居する場合の体験入居の手配や入居契約を締結する行為等々
後見人の仕事に含まれないもの
・直接、家事や介護をすることはできません
家事や介護などの行為はヘルパー等がサポートします。後見人は、それらの利用契約や情報収集などを担当することが仕事です。日用品の購入程度のことであればサポート可能です。
・財産の投機的運用はできません
後見人の仕事は、財産を減らさないように維持しつつ、生活設計をすることにあります。
株式投資などの投機的運用や、不動産の売却などの行為は、家庭裁判所に厳しく制限されているため、原則としておこなうことができません。
・入院、施設入所の際の身元保証人や身元引受人にんなることはできません
入居費用の支払いが滞った際の費用保証や、死亡時の身元引受人は後見人個人として責任を取ることができないので、原則としてできません。
ただし、死後事務委任契約を別途結んでいる場合は、身元引受人になることが可能です。
・病気の治療や手術など、医療行為に同意することはできません
医療行為の決定は、本来、本人しかできない行為なので、後見人には同意見はありません(厳密にいうと、家族であっても同様です)。
生命の危険が迫っている場合は、原則として、救命・延命に必要な処置を医師の判断でおこなってもらいます。
もし、延命治療を拒否したいなどの希望があれば、事前になんらかの意思表示をしていただく必要があります。
・遺言や養子、認知、離婚などの意思表示はできません
これらの行為は「一身専属的な行為」といって、本人の自由意思にのみ基づいてできる行為ですので、後見人が代理することはできません。
契約の内容は自由に決められますか?
任意後見契約は、契約です。
契約自由の原則に従い、当事者双方の合意により、法律の趣旨に反しない限り(違法、無効な内容ではないもの)、自由に決めることができます。
任意後見は、身内の者でもなれますか?
成人であれば、誰でも、本人の信頼できる人を、任意後見人にすることができます。
・後見人になれる人
1.配偶者や親族
2.本人が信頼する第三者
3.弁護士、司法書士、行政書士、社会福祉士などの専門家
4.社会福祉法人やNPO法人
・後見人になれない人
1.未成年者
2.後見人を解任された者
3.破産者
4.本人に対して訴訟を起こした人
任意後見人はいつから委任された事務を始めるのですか?
任意後見契約は、本人の判断能力が衰えた場合に備えてあらかじめ結ばれるものですから、任意後見人の仕事は、本人がそういう状態になってから始まります。
具体的には、任意後見人になることを引き受けた人(任意後見受任者)や親族が、家庭裁判所に対し、本人の判断能力が衰えて任意後見事務を開始する必要が生じたので、「任意後見監督人」を選任してほしい旨の申立てをします。そして、家庭裁判所が、任意後見人を監督すべき「任意後見監督人」を選任した時から効力を生じます。この時から、任意後見契約で委任された事務を本人に代わって行います。
任意後見監督人の仕事はなんですか?
任意後見監督人の仕事は、任意後見人が任意後見契約の内容どおり適正に仕事をしているかを、任意後見人から財産目録などを提出させるなどして、監督することです。また、本人と任意後見人の利益が相反する法律行為を行なうときに、任意後見監督人が本人を代理します。
任意後見監督人はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。
したがって、任意後見監督人が、任意後見人の仕事について、それが適正になされているか否かをチェックしてくれますし、任意後見監督人からの報告を通じて、家庭裁判所も、任意後見人の仕事を間接的にチェックする仕組みになっています。
判断能力はあるが年を取ったり病気になるなどして体が不自由になった場合に備えて、あらかじめ、誰かに財産管理等の事務をお願いしておきたいが、これも任意後見契約でまかなえますか?
任意後見契約は、判断能力が衰えた場合に備えるものなので、判断能力が低下しない限り、その効力を発動することはありません。
この場合には、任意後見契約によることはできず、通常の「委任契約」を締結することにより、対処することになります。実際、このような委任契約を、任意後見契約と組み合わせて締結する場合が多いのです。通常の委任契約と、任意後見契約の両方を組み合わせて締結しておけば、どちらの事態にも対処できるので安心です。判断能力が衰えた場合には、通常の委任契約に基づく事務処理から、任意後見契約に基づく事務処理へと移行することになります。
任意後見契約を結ぶには、どんな書類が必要ですか?
・本人について
印鑑登録証明書(又は運転免許証等の顔写真付身分証明書)
戸籍謄本
住民票
・任意後見受任者について
印鑑登録証明書(又は運転免許証等の顔写真付身分証明書)
住民票
印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票は、発行後3ヶ月以内のものに限ります